[池袋] 配偶者居住権とは?制度の仕組みと相続税評価の考え方#相続税#税理士#池袋
2020年4月に施行された民法改正により、配偶者居住権という制度が新たに設けられました。この制度は、被相続人の配偶者が、それまで住んでいた建物に引き続き無償で住み続けることを、建物の所有権とは切り離して認めるものとされています。相続税実務においては、この権利をどのように評価し、どのような場面で活用を検討すべきかが論点になりやすいといわれています。本記事では、配偶者控除や小規模宅地等の特例など他の制度との重複を避け、配偶者居住権そのものの仕組みや評価の考え方、実務上の留意点に絞って解説していきます。制度の趣旨や成立要件、配偶者短期居住権との違い、登記の必要性、消滅時の取り扱いまで、実務上の流れに沿って順を追って確認していきます。
目次
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配偶者居住権とはどのような制度か
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制度創設の背景(2020年民法改正)
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建物所有権と居住権を分けて考える仕組み
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配偶者短期居住権との違い
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短期居住権の性質(遺産分割終了までの一時的な権利)
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存続期間・成立要件の違い
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配偶者居住権の成立要件と取得方法
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遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判による取得
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配偶者が対象建物に居住していたことなど要件
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配偶者居住権の評価の考え方
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建物・敷地の評価を居住権部分と負担付所有権部分に分ける考え方
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存続期間の設定が評価に与える影響
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小規模宅地等の特例との関係
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配偶者居住権に基づく敷地利用権への特例適用の考え方
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子など他の相続人が取得する所有権部分との関係
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登記の必要性と第三者対抗要件
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登記をしないと第三者に対抗できないとされる点
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建物所有者との協力が必要になる実務上の注意点
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配偶者居住権の消滅と二次相続における留意点
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配偶者の死亡・放棄・存続期間満了による消滅
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二次相続における相続税負担の考え方
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配偶者居住権を検討する際の実務上の注意点
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建物の修繕・維持費用の負担をめぐる取り決め
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判断能力低下時の対応や専門家への相談の重要性
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配偶者居住権とはどのような制度か
配偶者居住権は、2020年4月に施行された民法改正によって新設された権利とされています。従来の相続実務では、自宅を配偶者が相続すると、その評価額が大きいために預貯金など他の財産を十分に取得できなくなり、老後の生活資金に不安が残るケースがあると指摘されていたようです。こうした課題を踏まえ、自宅に住み続ける権利と、自宅そのものの所有権とを分けて考える仕組みが導入されたと理解されています。
具体的には、被相続人が所有していた建物に、相続開始の時点で配偶者が居住していた場合、その配偶者は建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得できるとされています。この権利が配偶者居住権と呼ばれるものです。建物の所有権自体は、子など他の相続人が取得することも可能とされており、所有権と居住権を別々の相続人が取得する形が想定されているようです。
この仕組みにより、配偶者は自宅の所有権そのものを取得しなくても、住み慣れた自宅に引き続き住み続けられる可能性が広がったといわれています。所有権を取得する場合に比べて、配偶者居住権の評価額は低く抑えられる傾向があるとされ、その分、配偶者が預貯金など他の財産を多く取得しやすくなる効果が期待されているようです。
もっとも、配偶者居住権はあくまで新しく設けられた権利であり、従来からある所有権とは性質が異なる点に注意が必要です。譲渡が制限されているとされる点や、建物の維持管理をめぐる負担の分担など、あらかじめ検討しておくべき事項も少なくないと考えられます。
また、配偶者居住権は、当事者間の合意のみに基づく使用貸借契約のような不安定な立場とは異なり、法律上定められた要件を満たすことで成立する、より安定した権利として位置づけられているといわれています。使用貸借契約の場合、建物の所有者の意向によって居住の継続が左右されかねない面があるのに対し、配偶者居住権はこうした不安定さを解消する目的も持っているとされています。以下では、この制度の具体的な内容について、成立要件や評価の考え方を中心に見ていきます。
配偶者居住権は制度としては比較的新しく、相続実務における活用件数も、他の相続税対策と比べるとまだ多くはないといわれています。もっとも、高齢化が進む中で、配偶者の生活の安定を重視する家庭が増えていることを踏まえると、今後さらに検討される場面が増えていく可能性もあると考えられます。
特に、自宅以外にまとまった預貯金が少ない家庭や、配偶者と他の相続人との関係が必ずしも良好とはいえない家庭では、配偶者居住権の活用によって配偶者の生活基盤を確保しやすくなる場合があるとされています。もっとも、どのような家庭にも一律に当てはまる制度ではないため、個別の事情に応じた検討が欠かせないと考えられます。
制度創設の背景(2020年民法改正)
配偶者居住権が創設される以前は、被相続人の配偶者が自宅に住み続けるためには、遺産分割において自宅の所有権そのものを取得する必要があるのが一般的だったとされています。しかし、自宅の評価額が遺産全体に占める割合が大きい場合、配偶者が自宅を取得すると他の財産を取得できる余地が小さくなり、老後の生活資金が不足しかねないという課題が指摘されていたようです。
また、平均寿命が延びる中で、配偶者が長期間にわたり自宅に住み続けることを前提とした制度整備の必要性も議論されてきたといわれています。こうした社会的背景を踏まえ、2018年の民法(相続法)改正において配偶者居住権の制度が創設され、2020年4月1日から施行されたとされています。
この改正では、配偶者居住権のほかにも、配偶者短期居住権や自筆証書遺言の方式緩和、遺留分制度の見直しなど、相続に関するさまざまな見直しが同時に行われたとされています。配偶者居住権は、こうした一連の相続法改正の中でも、配偶者の生活保障という観点から特に注目される制度のひとつと位置づけられているようです。
制度の趣旨を踏まえると、配偶者居住権は単なる節税の手段としてではなく、残された配偶者の生活の安定を図るための仕組みとして理解しておくことが望ましいと考えられます。
なお、改正前は、配偶者が自宅の所有権を取得しないまま、他の相続人の理解のもとで無償で住み続けるという対応がとられる場合もあったとされていますが、これはあくまで当事者間の合意に基づく不安定な状態にとどまり、法的に保護された権利とはいえない面があったといわれています。配偶者居住権の創設は、こうした状態を制度として整理する意義も持っていたと考えられます。
建物所有権と居住権を分けて考える仕組み
配偶者居住権の特徴は、これまで一体のものとして扱われてきた建物の「所有権」を、居住する権利(使用収益権)の部分と、居住権の負担が付いた所有権の部分とに分けて考える点にあるとされています。前者を配偶者が取得し、後者を他の相続人(たとえば子)が取得するという分け方が典型例として想定されているようです。
この分け方により、配偶者は所有権そのものを取得しなくても、実質的に自宅に住み続けるという目的を達成できる可能性があるといわれています。一方、所有権を取得する側の相続人は、配偶者が生存中または存続期間中はその建物を自由に使用・収益できない、負担付きの所有権を取得することになると考えられます。
なお、配偶者居住権は建物についての権利とされており、敷地(土地)そのものについては、配偶者居住権に基づく敷地利用権という別個の権利として扱う考え方が採られているようです。建物と敷地の権利関係が分かれて整理される点も、この制度を理解するうえで押さえておきたいポイントのひとつと考えられます。
このように、居住権と所有権を分離するという発想自体は、他の財産分割の場面ではあまり見られない特徴的な仕組みであり、遺産分割の選択肢を広げる制度として位置づけられているようです。
なお、配偶者居住権を有する配偶者には、建物を自ら使用するだけでなく収益を得る権利も認められているとされ、たとえば建物の所有者の承諾を得たうえで建物の一部を第三者に賃貸し、賃料収入を得ることも可能とされています。ただし、こうした収益行為には所有者の承諾が前提となる点に留意が必要です。
配偶者短期居住権との違い
配偶者居住権とよく似た名称の制度として、配偶者短期居住権と呼ばれる権利も、同じ2020年施行の相続法改正によって新設されたとされています。両者は名称が似ているため混同されやすいものの、成立要件や存続期間、法的性質などの点で異なる制度と理解しておく必要があります。
配偶者短期居住権は、相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた配偶者について、遺産分割が終了するまでの間、あるいは一定の期間が経過するまでの間、引き続きその建物に無償で住み続けることを認める権利とされています。遺産分割協議や相続手続きが終わるまでの当面の生活の場を確保するための、いわば暫定的な権利という位置づけのようです。
これに対して、配偶者居住権は、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判などによって改めて取得する必要がある権利であり、成立すれば配偶者の終身、あるいは遺産分割で定めた一定期間にわたって存続する、より長期的な権利として設計されているとされています。配偶者短期居住権が特別な手続きを要さず一定の要件のもとで発生すると考えられているのに対し、配偶者居住権は遺産分割等における取得の手続きを経て初めて成立する点も大きな違いといえるでしょう。
実務上は、相続開始直後の当面の生活の場を確保する配偶者短期居住権と、その後の遺産分割協議等を通じて長期的な居住を確保する配偶者居住権とを、それぞれ別の制度として整理して理解しておくことが望ましいと考えられます。
名称が似ていることに加え、いずれも配偶者の居住の保護を目的とした制度であるため、実務の場でも混同されやすい点が指摘されているようです。相続に関する相談を受ける際には、どちらの権利について話しているのかを、当事者間であらかじめ明確にしておくことが望ましいと考えられます。
相続開始直後は配偶者短期居住権によって当面の居住が確保され、その後の遺産分割協議において配偶者居住権の取得についてあらためて合意がまとまれば、暫定的な権利から長期的な権利へと引き継がれていく流れが想定されているとされています。この二つの権利がどのように連続しているのかを理解しておくことも、相続手続き全体を把握するうえで役立つと考えられます。
短期居住権の性質(遺産分割終了までの一時的な権利)
配偶者短期居住権は、被相続人が亡くなった時点で、その配偶者が被相続人の所有する建物に無償で居住していた場合に、特段の手続きを経ることなく発生すると考えられている権利とされています。遺産分割協議がまとまるまでの間、配偶者が急に住まいを失うことのないよう、当面の生活の場を確保することを目的とした制度と理解されているようです。
この権利は、遺産分割によって建物の帰属が確定するまでの間、または相続開始から一定の期間が経過するまでの間など、比較的短期間の存続が想定されているとされています。あくまで暫定的・一時的な権利という位置づけであるため、長期にわたる居住の確保を目的とする場合には、別途、配偶者居住権の取得を検討する必要があると考えられます。
また、配偶者短期居住権が財産的価値のある権利として相続税の課税対象になるかどうかについても議論されてきた経緯があるとされていますが、遺産分割終了までの一時的な使用権にとどまるものとして、相続税の課税関係においては配偶者居住権とは異なる整理がされているといわれています。個別の判断が必要な場面もあるため、専門家に確認しておくことが望ましいでしょう。
また、配偶者短期居住権が消滅する場合には、建物の所有者側から一定の期間を置いて消滅の申し入れを行う必要があるとされ、配偶者が突然住まいを失うことのないよう配慮された仕組みになっていると考えられます。この点も、配偶者の生活の急変を避けるための制度設計のひとつと理解されているようです。
存続期間・成立要件の違い
配偶者短期居住権は、遺産分割の結果が確定するまで、または相続開始から一定期間が経過するまでの間存続するとされる一方、配偶者居住権は、遺産分割協議や遺言などで別段の定めがない限り、配偶者の終身にわたって存続するのが原則とされています。存続期間の長さという点で、両者には大きな違いがあると考えられます。
成立要件についても違いがあり、配偶者短期居住権は、相続開始時に無償で居住していたという事実があれば足りるとされているのに対し、配偶者居住権は、遺産分割協議における合意や、被相続人の遺言による指定、あるいは家庭裁判所の審判といった、何らかの積極的な取得手続きを経る必要があるとされています。
このように、配偶者短期居住権が「相続開始によって当然に生じ得る一時的な権利」であるのに対し、配偶者居住権は「遺産分割等の手続きを経て初めて成立する、より恒久的な権利」であるという整理をしておくと、両者の違いを理解しやすいと考えられます。相続に関する話し合いの中では、この二つの権利を混同しないよう注意する必要があるでしょう。
さらに、配偶者短期居住権については、配偶者居住権のように登記によって第三者に対抗する仕組みが設けられていないとされ、この点も両者の性質の違いを示す要素のひとつとして挙げられています。
配偶者居住権の成立要件と取得方法
配偶者居住権が成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があるとされています。まず、被相続人が所有していた建物であること、そして相続開始の時点でその配偶者が現にその建物に居住していたことが前提になると考えられます。被相続人が建物を第三者と共有していた場合には、配偶者居住権の成立が認められない場合もあるとされ、注意が必要です。
これらの要件を満たしたうえで、配偶者居住権を実際に取得するためには、遺産分割協議によって配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を合意するか、被相続人が遺言によってあらかじめ配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を定めておくか、あるいは家庭裁判所の審判によって取得させるか、いずれかの手続きを経る必要があるとされています。
遺産分割協議による場合には、相続人全員の合意が前提となるため、他の相続人(建物の所有権を取得する側)の理解や協力が欠かせないと考えられます。一方、遺言によってあらかじめ配偶者居住権を取得させる旨を定めておけば、相続開始後の遺産分割協議を待たずに、配偶者居住権の取得を実現しやすくなるといわれています。
家庭裁判所の審判による取得は、遺産分割協議が調わない場合の最終的な手段として位置づけられているようです。いずれの取得方法を選ぶかによって、手続きの進め方や必要な準備が異なってくるため、生前から配偶者居住権の活用を検討している場合には、遺言の作成も含めて早めに専門家に相談しておくことが望ましいと考えられます。
取得方法をどれにするかによって、相続開始後の手続きの流れも変わってきます。あらかじめ遺言を用意しておく方法は、配偶者の意思確認や相続人間の調整に要する時間を短縮できる可能性がある一方、遺産分割協議による方法は、相続開始後の財産状況を踏まえた柔軟な調整がしやすいという特徴もあるとされています。
また、遺言によって配偶者居住権を遺贈する内容を定める場合には、他の相続人の遺留分に配慮した内容になっているかどうかも、あわせて確認しておく必要があると考えられます。配偶者居住権の評価額が高額になる場合、他の相続人の取得分が相対的に少なくなり、遺留分をめぐる問題に発展する可能性も否定できないため、注意が必要です。
遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判による取得
配偶者居住権を取得する方法としては、大きく分けて三つの経路が想定されているとされています。一つ目は、相続人全員による遺産分割協議の中で、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を合意する方法です。この場合、建物の所有権を取得する相続人との間で、権利関係を明確にした合意書を作成しておくことが望ましいと考えられます。
二つ目は、被相続人があらかじめ遺言によって、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨(いわゆる遺贈)を定めておく方法です。遺言によって定めておけば、相続開始後に相続人間で改めて合意を形成する手間を省ける可能性があり、配偶者の生活の安定を早期に図りたい場合には有効な手段のひとつと考えられているようです。
遺言を作成する際には、配偶者居住権を取得させる旨だけでなく、建物の所有権を誰に取得させるかについてもあわせて明記しておくことが望ましいと考えられます。所有権の帰属先が遺言に明記されていないと、その部分について改めて遺産分割協議が必要になり、配偶者居住権の取得だけが先行して確定するといった不整合が生じる可能性もあるようです。
三つ目は、遺産分割協議が調わない場合に、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権を取得させる方法とされています。ただし、審判による取得は、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められる場合など、一定の要件のもとで認められるものとされ、必ずしも配偶者の希望どおりに認められるとは限らない点に留意が必要です。
いずれの取得方法であっても、後日の手続きを円滑に進めるためには、権利関係を明確にした書面を作成しておくことが望ましいと考えられます。特に遺産分割協議による場合には、口頭の合意だけにとどめず、協議書に取得の内容を具体的に記載しておくことが、後々のトラブルを避けるうえで有効とされています。
配偶者が対象建物に居住していたことなど要件
配偶者居住権の対象となるのは、被相続人が相続開始の時点で所有していた建物であって、かつ、その配偶者が相続開始の時点で現に居住していた建物とされています。単に被相続人が所有していただけの建物や、配偶者が居住していなかった建物については、配偶者居住権の対象とならないと考えられます。
また、被相続人が配偶者以外の第三者とその建物を共有していた場合には、配偶者居住権の成立が認められないとされています。一方、被相続人と配偶者の二人で建物を共有していたようなケースでは、要件を満たす場合があるといわれていますが、細かな要件の判断には専門的な確認が必要になると考えられます。
なお、法律上の婚姻関係にある配偶者であることも前提とされており、内縁関係にある者などはこの制度の対象には含まれないと理解されています。事実婚のパートナーの生活保障を検討する場合には、配偶者居住権とは別の方法(遺言による遺贈など)を検討する必要があると考えられます。
また、「居住していた」かどうかの判断についても、相続開始時にたまたま入院や施設への短期入所などで一時的に自宅を離れていたようなケースでは、生活の本拠が自宅にあったと認められるかどうかを個別に確認する必要があるとされています。形式的に住民票の所在だけで判断されるものではなく、実際の生活実態も踏まえて検討されると考えられます。
配偶者居住権の評価の考え方
配偶者居住権を相続財産として計上する場合、相続税の申告にあたってその評価額を算定する必要があります。配偶者居住権の評価は、建物および敷地の相続税評価額を基礎としつつ、配偶者居住権が設定されたことによる負担を考慮して、居住権部分と、負担付きの所有権部分とに分けて計算する考え方が採られているとされています。
おおまかな考え方としては、まず建物と敷地それぞれの通常の相続税評価額を求め、そこから配偶者居住権が存続する期間や配偶者の年齢などに応じた一定の係数を用いて、配偶者居住権に相当する部分の価値と、所有者側に残る負担付き所有権の価値とに按分するという方法が定められているとされています。
この評価方法は、配偶者居住権の存続期間が長くなるほど、配偶者居住権として評価される部分の割合が大きくなり、逆に所有権側の評価額は小さくなる傾向があるといわれています。存続期間を終身とするか、一定の年数に限定するかによって、評価額の配分が変わってくる点は、実務上押さえておきたいポイントのひとつと考えられます。
なお、評価の具体的な計算方法は相応に専門的な内容を含むため、実際の申告にあたっては、個別の事情に応じて税理士など専門家の確認を受けながら進めることが望ましいと考えられます。
また、配偶者居住権の評価にあたっては、法令で定められた計算方法に基づく数値を用いる必要があるとされ、独自の算定方法で評価額を見積もることは想定されていないようです。計算過程で用いる係数や数値は改正等によって見直される可能性もあるため、申告の時点における最新の取り扱いを確認しながら進めることが望ましいと考えられます。以下では、評価の基本的な考え方について、もう少し詳しく見ていきます。
評価額の算定結果は、遺産全体の総額や、各相続人が納付すべき相続税額に直接影響を及ぼすことになります。配偶者居住権の取得を検討する段階で、概算であっても評価額の見込みを確認しておくことが、遺産分割協議を進めるうえでの判断材料になると考えられます。
評価額の計算にあたって用いる存続期間や配偶者の年齢に関する数値は、相続開始の時点を基準に定まるとされています。生前の段階で概算のシミュレーションを行う場合には、あくまで見込みの数値であることを踏まえたうえで、実際の相続開始時に改めて計算し直す必要がある点にも留意しておくとよいでしょう。
建物・敷地の評価を居住権部分と負担付所有権部分に分ける考え方
配偶者居住権が設定された建物については、その評価額を、配偶者が取得する「配偶者居住権」の価値と、他の相続人が取得する「配偶者居住権が設定された建物の所有権(負担付き所有権)」の価値とに分けて考えるとされています。両者を合計すると、配偶者居住権が設定されていない場合の建物の通常の評価額と一致する関係にあると理解されているようです。
敷地についても同様の考え方が採られており、配偶者居住権に基づく敷地の利用権(いわゆる敷地利用権)の価値と、敷地の所有権(負担付き所有権)の価値とに分けて評価するとされています。建物と敷地のそれぞれについて、居住権に対応する部分と所有権に対応する部分を算定する必要があるため、評価の作業はやや複雑になる傾向があるといわれています。
このように、一つの不動産について複数の権利が重なり合う形で評価が行われる点が、配偶者居住権をめぐる相続税実務の特徴のひとつとされています。評価にあたっては、建物の耐用年数や築年数、存続期間、配偶者の平均余命に関する数値なども考慮要素になるとされ、個々の事案に応じた慎重な計算が求められると考えられます。
特に、建物の耐用年数がすでに経過しているような古い建物の場合、負担付き所有権の評価額がゼロに近くなる場合もあるといわれています。この場合、配偶者居住権として評価される部分が建物の評価額の大部分を占める結果になることもあるとされ、財産構成によって評価結果が大きく変わり得る点に留意が必要です。
逆に、比較的築年数の浅い建物であれば、負担付き所有権として評価される部分の割合が相対的に大きくなる傾向があるとされています。建物の築年数や構造によって評価結果の傾向が変わってくるため、対象となる建物の状況をあらかじめ確認したうえで、評価の見込みを立てておくことが望ましいと考えられます。
存続期間の設定が評価に与える影響
配偶者居住権の存続期間は、遺産分割協議や遺言などで別段の定めがなければ、配偶者の終身の間とされるのが原則とされていますが、当事者間の合意によって一定の年数に限定することも可能とされています。この存続期間の長さは、評価額の算定結果に直接影響を与える要素のひとつといわれています。
一般的には、存続期間を終身とする場合、配偶者の年齢が若いほど、配偶者居住権として評価される価値の割合が大きくなる傾向があるとされています。反対に、配偶者の年齢が高い場合や、存続期間をあらかじめ短く区切っておく場合には、配偶者居住権としての評価額が相対的に小さくなる傾向があるようです。
存続期間の設定は、単に評価額の大小だけでなく、配偶者が実際にどの程度の期間、自宅に住み続けたいと考えているかという実生活上の希望とも密接に関わってくる事項です。評価額の見込みだけを重視するのではなく、配偶者本人の意向や今後の生活設計も踏まえて、存続期間をどのように定めるかを検討することが望ましいと考えられます。
なお、いったん定めた存続期間を、後から一方的に変更することは想定されていないとされています。存続期間を短く区切りすぎると、期間満了後に配偶者が住まいを失う事態にもなりかねないため、将来の生活設計を見据えて、余裕のある期間設定を検討しておくことが望ましいと考えられます。
小規模宅地等の特例との関係
配偶者居住権を取得する場合、その敷地に対応する権利(敷地利用権)についても、一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例の適用を受けられる場合があるとされています。小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅などの敷地について、一定の面積までの評価額を大きく減額できる制度として知られていますが、配偶者居住権が絡む場合には、適用対象となる権利の範囲について注意が必要とされています。
配偶者が取得する敷地利用権について特例の適用を受ける場合と、建物の所有権を取得した他の相続人が取得する敷地の所有権(負担付き所有権)について特例の適用を受ける場合とでは、それぞれ別個に要件を満たす必要があると考えられます。両者の関係を正しく整理しておかないと、特例の適用漏れや誤った適用につながる可能性があるため、慎重な確認が求められます。
また、配偶者が取得する敷地利用権については、配偶者が自宅の敷地を取得したとみなされる立場にあることから、比較的特例の適用を受けやすい傾向があるといわれています。一方、子など他の相続人が取得する所有権部分については、その相続人自身が被相続人と同居していたかどうかなど、別途の要件を満たす必要がある場合があるとされ、注意が必要です。
小規模宅地等の特例そのものの詳細な要件については、別の機会に取り上げられることも多いと考えられますが、配偶者居住権が関わる場面では、通常のケースよりも検討すべき論点が増える傾向があるため、個別の事案に応じて専門家に確認しながら進めることが望ましいと考えられます。
特例の適用を受けられるかどうかは、相続税の総額に大きな影響を及ぼす場合があるため、配偶者居住権の取得を検討する段階から、特例の適用可否もあわせて試算しておくことが望ましいと考えられます。評価額の見込みと特例適用後の見込みの両方を踏まえて、遺産分割の内容を検討するとよいでしょう。
加えて、小規模宅地等の特例には適用対象となる面積の上限が設けられているとされ、敷地利用権と敷地の所有権とに分かれて評価される配偶者居住権のケースでは、この上限面積をどのように按分するかについても、あらかじめ整理しておく必要があると考えられます。
配偶者居住権に基づく敷地利用権への特例適用の考え方
配偶者が配偶者居住権とあわせて取得する敷地利用権についても、小規模宅地等の特例における「特定居住用宅地等」としての適用を受けられる場合があるとされています。配偶者が取得する部分については、従来の自宅敷地の相続と同様に、比較的緩やかな要件のもとで特例の適用が認められやすい傾向があるといわれています。
もっとも、特例の適用を受けるためには、対象となる敷地利用権の評価額をあらかじめ確定させておく必要があり、配偶者居住権の評価計算と小規模宅地等の特例の適用計算とを、順を追って整理しながら進める必要があると考えられます。両者の計算が絡み合うため、申告書の作成にあたっては相応の時間と専門的な確認を要するといわれています。
敷地利用権の面積をどのように捉えるかについても、建物の利用状況に応じた按分計算が必要になる場合があるとされ、単純に敷地全体の面積をそのまま評価に用いるわけではない点にも留意が必要です。個別の土地の形状や利用状況によって計算方法が異なる可能性があるため、専門家による確認を経ておくことが望ましいと考えられます。
建物の一部を店舗や賃貸用として利用しているようなケースでは、居住用部分と事業用・賃貸用部分とで敷地利用権の按分計算がさらに複雑になる場合もあるとされています。自宅の一部を賃貸に供している場合には、こうした按分計算が必要になる可能性もあわせて念頭に置いておくとよいでしょう。
相続税の申告書においても、配偶者居住権に関する評価明細と、小規模宅地等の特例に関する明細とをそれぞれ整合させて記載する必要があるとされ、通常の申告作業よりも記載事項が増える傾向があるといわれています。申告作業に要する時間にも余裕を持たせておくことが望ましいと考えられます。
子など他の相続人が取得する所有権部分との関係
建物の所有権や敷地の所有権(負担付き所有権)を取得する子など他の相続人についても、小規模宅地等の特例の適用を検討する余地があるとされていますが、この場合には、その相続人自身が被相続人と同居していたか、あるいは一定の要件を満たす別居親族に該当するかなど、通常の特例適用と同様の要件を満たす必要があると考えられます。
配偶者が敷地利用権について特例の適用を受け、かつ、子が所有権部分について別途特例の適用を受けようとする場合には、それぞれの持分に応じた按分計算が必要になるとされ、一つの敷地について複数の特例適用が重なる形になる可能性があります。こうした場面では、通常のケースよりも計算が複雑になりやすいと考えられます。
いずれにしても、配偶者居住権が設定された不動産について小規模宅地等の特例の適用を検討する場合には、誰がどの権利を取得し、それぞれがどのような要件を満たしているのかを丁寧に整理したうえで、申告書に反映させる必要があると考えられます。要件の判断に迷う場合には、早めに専門家へ相談しておくことが望ましいでしょう。
特に、子が被相続人と同居していなかった場合には、いわゆる家なき子特例に該当するかどうかなど、別居親族に関する細かな要件を満たす必要が出てくるとされています。配偶者居住権が絡む相続では、こうした要件確認の作業が一段と重要になると考えられます。
登記の必要性と第三者対抗要件
配偶者居住権は、成立しただけでは第三者に対してその権利を主張できない場合があるとされ、登記を備えておくことが重要とされています。配偶者居住権は不動産に関する権利であるため、他の物権と同様に、登記をすることによって初めて第三者に対する対抗力を得られる仕組みになっていると考えられます。
具体的には、建物の所有権を取得した相続人が第三者に建物を売却したり、担保に供したりした場合、配偶者居住権の登記がなされていなければ、配偶者はその第三者に対して居住権を主張できなくなる可能性があるとされています。せっかく遺産分割等によって配偶者居住権を取得しても、登記を怠っていると、その効力が実質的に損なわれてしまうおそれがある点には注意が必要です。
登記の手続きは、配偶者居住権を取得した配偶者と、建物の所有権を取得した相続人とが共同で申請する形が原則とされています。そのため、遺産分割協議の段階から、登記手続きへの協力についてもあわせて合意しておくことが望ましいと考えられます。協議がまとまった後に登記の話が滞ってしまうと、配偶者の権利が不安定な状態のまま放置されるおそれもあるため、注意が必要です。
なお、配偶者居住権の登記がなされていても、敷地そのものについては別途の権利関係の整理が必要になる場合があるとされ、建物と敷地の双方について、登記の状況を確認しておくことが望ましいと考えられます。
登記の要否について「そこまでしなくても家族間なら問題ない」と考える方もいるかもしれませんが、将来的な家族関係の変化や、相続人の一人が経済的に困窮するような事態も想定しておくと、登記による対抗要件を備えておく意義は小さくないと考えられます。
登記手続きには一定の費用が生じることも念頭に置いておく必要があります。登録免許税や司法書士への依頼費用など、誰がどのように負担するかについても、遺産分割協議の段階であらかじめ取り決めておくと、後々の負担をめぐる行き違いを防ぎやすくなると考えられます。
登記をしないと第三者に対抗できないとされる点
配偶者居住権は、民法上、登記をすることによって第三者に対抗できる権利として位置づけられているとされています。逆にいえば、登記を備えていない状態では、配偶者は自らが配偶者居住権を有することを、事情を知らない第三者に対して主張できない可能性があるということです。
具体的な場面としては、建物の所有権を取得した相続人が、配偶者に無断で建物を第三者に売却してしまうようなケースが想定されます。この場合、配偶者居住権の登記が備えられていなければ、新たに建物を取得した第三者から明け渡しを求められる可能性も否定できないとされ、配偶者の生活基盤が脅かされるおそれがあります。
こうしたリスクを避けるためにも、配偶者居住権を取得したら速やかに登記の手続きを行っておくことが望ましいと考えられます。遺産分割協議が成立してから実際に登記が完了するまでには一定の時間を要する場合もあるため、早めに手続きに着手しておくことが安心につながるといえるでしょう。
登記が完了するまでの間に、建物の所有者が変更されたり、担保が設定されたりする可能性もゼロではないとされ、配偶者居住権の取得が決まった段階から、登記完了までの期間をできるだけ短くする意識を持っておくことが望ましいと考えられます。
なお、登記を備えていない状態であっても、建物の所有者本人や、事情を知っている相続人との関係では、配偶者居住権自体が無効になるわけではないと考えられています。あくまで、事情を知らない第三者との関係で権利を主張できなくなるリスクがある、という点を正しく理解しておくことが重要です。
建物所有者との協力が必要になる実務上の注意点
配偶者居住権の登記手続きは、権利を取得する配偶者と、建物の所有権を取得する相続人との共同申請によって行われるのが原則とされています。そのため、登記を円滑に進めるためには、双方の協力関係が欠かせないと考えられます。遺産分割協議の内容に納得していても、実際の登記手続きへの協力に消極的な相続人がいる場合、手続きが滞ってしまう可能性もあるようです。
こうした事態を避けるためには、遺産分割協議書の中に、登記手続きへの協力義務についてもあらかじめ明記しておくことが有効な対策のひとつとされています。協議の段階で口頭の合意だけにとどめず、書面上で登記への協力を明確にしておくことで、後々のトラブルを防ぎやすくなると考えられます。
また、建物の所有権を取得した相続人が、その後亡くなったり、住所が変わったりした場合には、登記手続きに支障が生じる可能性もあるとされています。遺産分割の合意が成立したら、できるだけ速やかに登記手続きまで完了させておくことが、実務上望ましい対応と考えられます。
建物の所有権を取得する相続人が遠方に住んでいる場合や、相続人同士の関係がやや疎遠な場合には、登記書類のやり取りに想定以上の時間がかかることもあるようです。こうした事情がある場合には、司法書士など専門家に手続きの窓口を一本化してもらうことも、円滑に進めるための工夫のひとつと考えられます。
配偶者居住権の消滅と二次相続における留意点
配偶者居住権は、一定の事由が生じることによって消滅するとされています。代表的な消滅事由としては、配偶者本人が死亡した場合や、あらかじめ定められた存続期間が満了した場合などが挙げられます。また、配偶者と建物の所有者との合意によって配偶者居住権を放棄することも可能とされているようです。
配偶者居住権が消滅すると、それまで負担付きであった建物の所有権は、負担のない通常の所有権に戻ると考えられています。この際、所有権を取得していた相続人に対して、あらためて課税関係が生じるかどうかは、消滅の原因によって異なる取り扱いがされる場合があるとされ、個別に確認しておく必要があります。
特に、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅する場合(いわゆる二次相続)については、実務上重要な論点のひとつとされています。配偶者居住権はあくまで配偶者本人に帰属する一身専属的な権利であるため、配偶者が死亡した時点でその権利自体が消滅し、相続財産を構成しないと考えられています。そのため、配偶者居住権について改めて相続税が課されることはないという整理がされているようです。
一方で、建物の所有権を取得していた相続人にとっては、配偶者居住権の消滅によって負担のない完全な所有権を得られることになりますが、この点についても課税関係がどのように整理されるか、あらかじめ理解しておくことが望ましいと考えられます。以下で、消滅事由と二次相続における考え方について、もう少し詳しく確認していきます。
配偶者居住権の消滅にまつわる論点は、成立時の取得方法や評価方法と比べると見落とされやすい傾向があるといわれています。取得の時点だけでなく、将来どのような形で権利が終了するのかについても、あらかじめ見通しを立てておくことが望ましいと考えられます。
なお、配偶者居住権の存続期間中に、建物の所有者側が先に死亡するというケースも想定されます。この場合、負担付きの所有権はその所有者の相続人にそのまま承継され、配偶者居住権自体には直接の影響が及ばないという整理がされているようです。所有者側の相続が生じた場合の権利関係についても、あらかじめ理解しておくと安心につながると考えられます。
配偶者の死亡・放棄・存続期間満了による消滅
配偶者居住権の消滅事由としては、まず配偶者本人の死亡が挙げられます。配偶者居住権は配偶者自身に帰属する権利であり、相続の対象とはならないとされているため、配偶者が死亡すれば、その時点で当然に権利が消滅すると考えられています。
また、遺産分割協議や遺言によってあらかじめ存続期間が定められていた場合には、その期間が満了することによっても配偶者居住権は消滅するとされています。存続期間が終身と定められている場合には、配偶者が死亡するまで存続することになりますが、一定の年数に限定されている場合には、その期間の経過とともに消滅する扱いになると考えられます。
このほか、配偶者と建物の所有者との合意によって、配偶者居住権を放棄することも可能とされています。老人ホームへの入居などにより自宅に住み続ける必要がなくなった場合に、合意のうえで配偶者居住権を放棄するケースも想定されるようです。放棄にあたっては、贈与税の課税関係が生じる可能性もあるとされ、慎重な検討が必要と考えられます。
放棄によって建物の所有者が経済的な利益を受けたとみなされる場合には、その利益相当額について贈与税が課される可能性があるといわれています。放棄を検討する際には、単に住まいを離れる手続きとして考えるのではなく、税務上の影響についてもあらかじめ確認しておくことが望ましいと考えられます。
二次相続における相続税負担の考え方
配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅する一身専属的な権利であるとされているため、配偶者が死亡した際に、配偶者居住権そのものについて改めて相続税が課されることはないという整理がされているようです。この点は、配偶者居住権を活用するうえでの一つのメリットとして紹介されることがあります。
一方、建物の所有権を取得していた相続人は、配偶者居住権の消滅によって、負担のない完全な所有権を取得することになりますが、これについても新たな課税が生じるものではないと整理されているようです。もっとも、こうした取り扱いは、当初の一次相続の時点で配偶者居住権に対応する評価が適切に行われていることが前提になっていると考えられます。
そのため、一次相続の段階で配偶者居住権や敷地利用権の評価をどのように行うかが、結果的に二次相続全体の税負担にも影響を及ぼす可能性があるといわれています。一次相続と二次相続を通じた税負担を見据えて、配偶者居住権を活用するかどうか、専門家を交えて事前にシミュレーションしておくことが望ましいと考えられます。
一次相続の時点で配偶者が自宅の所有権をそのまま取得する場合と比べて、配偶者居住権を活用した場合とで、一次相続・二次相続を通じた税負担の総額がどのように変わるかは、財産構成や配偶者の年齢によって異なる結果になり得るとされています。総合的な比較を行ったうえで、活用の是非を判断することが望ましいと考えられます。
加えて、二次相続の際には、配偶者に適用される相続税の軽減措置がなくなるという事情も踏まえておく必要があります。配偶者居住権を活用するかどうかにかかわらず、二次相続では一次相続に比べて相続人一人あたりの税負担が重くなりやすい傾向があるとされ、この点も含めた総合的な資産承継計画を検討しておくことが望ましいと考えられます。
配偶者居住権を検討する際の実務上の注意点
配偶者居住権は、配偶者の生活の安定を図るうえで有効な選択肢となり得る制度である一方、実際に活用するにあたっては、いくつかの実務上の注意点を踏まえておく必要があると考えられます。評価や登記といった手続き面だけでなく、日常生活における建物の維持管理をめぐる取り決めについても、あらかじめ整理しておくことが望ましいでしょう。
たとえば、配偶者居住権が設定された建物の修繕費用や固定資産税の負担をどちらが負うのかについては、法律上一定のルールが定められているとされていますが、実際の生活の中では、所有者と配偶者との間で認識のずれが生じることもあるようです。こうしたトラブルを避けるためにも、遺産分割協議の段階で費用負担の取り決めについても話し合っておくことが望ましいと考えられます。
また、配偶者自身の判断能力が将来低下する可能性も見据えて、配偶者居住権の取得や、その後の生活設計をどのように進めるかについても検討しておく必要があります。判断能力が低下した場合、配偶者居住権の放棄や建物の処分といった手続きに支障が生じる可能性もあるとされ、成年後見制度など他の制度とあわせて検討しておくことが望ましいといわれています。
配偶者居住権は比較的新しい制度であり、評価方法や税務上の取り扱いについても、実務の積み重ねの中で理解が深まってきている面があると考えられます。活用を検討する際には、遺産分割全体のバランスや家族の意向も踏まえたうえで、税理士など専門家に早めに相談しながら進めることが望ましいと考えられます。
配偶者居住権は、遺産分割の選択肢のひとつとして位置づけられるものであり、必ず活用しなければならない制度ではないと考えられます。財産の構成や家族関係によっては、従来どおり配偶者が自宅の所有権を取得する方法のほうが、結果的にシンプルで納得感のある選択になる場合もあるようです。
制度の活用を検討する際には、目先の評価額の大小だけでなく、配偶者が実際にどの程度の期間その自宅に住み続ける見込みなのか、他の相続人との関係は良好かどうかといった、数値化しにくい要素についてもあわせて検討することが望ましいと考えられます。
建物の修繕・維持費用の負担をめぐる取り決め
配偶者居住権が設定された建物については、通常の使用に必要な修繕は配偶者が行うべきものとされている一方、建物の大規模な修繕や固定資産税の負担などについては、所有者側が負うべき部分も含まれると考えられています。もっとも、実際の生活の中では、どこまでが「通常の修繕」にあたるのか判断に迷う場面も出てくるようです。
固定資産税についても、法律上は建物の所有者が納税義務を負う一方、配偶者居住権を有する配偶者が実質的にその建物を使用収益していることから、所有者が配偶者に対して費用の償還を求められる場合があるとされています。この点をめぐって、所有者と配偶者との間で認識の相違が生じ、トラブルに発展するケースも想定されるようです。
こうした費用負担をめぐる問題を未然に防ぐためには、遺産分割協議の段階で、修繕費用や固定資産税の負担割合、支払いの方法などについて、できるだけ具体的に取り決めておくことが望ましいと考えられます。合意内容を書面化しておくことで、後々の認識のずれを防ぎやすくなるでしょう。
また、建物にかけている火災保険などの契約者名義や保険金の受取人についても、配偶者居住権の取得にあわせて確認しておくことが望ましいと考えられます。所有者と居住者が異なる状態になることで、万一の災害時の補償関係が想定と異なってしまうおそれもあるため、契約内容の見直しをあわせて検討しておくとよいでしょう。
判断能力低下時の対応や専門家への相談の重要性
配偶者居住権を取得した配偶者が、その後高齢になり判断能力が低下した場合、配偶者居住権の放棄や、建物の処分に関する意思決定を、配偶者自身が行うことが難しくなる可能性があります。このような事態に備えて、あらかじめ成年後見制度の利用や、任意後見契約の締結などをあわせて検討しておくことが望ましいといわれています。
特に、老人ホームへの入居などにより配偶者居住権の放棄を検討する場面では、配偶者本人の意思確認が重要になるとされ、判断能力が低下してから対応しようとしても、円滑に手続きを進められない可能性があります。早い段階から将来を見据えた準備をしておくことが、結果的に配偶者本人や家族の安心につながると考えられます。
配偶者居住権は評価方法や税務上の取り扱いが比較的専門的な内容を含む制度であるため、活用を検討する段階から、税理士など専門家に相談しながら進めることが望ましいと考えられます。遺産分割全体の方針や、他の相続人との関係も踏まえたうえで、総合的な判断を行うことが、後悔のない選択につながるでしょう。
成年後見制度の利用を検討する場合には、後見人の選任手続きに一定の時間を要することも想定されます。配偶者居住権の放棄など、将来必要になりそうな手続きがある場合には、判断能力が十分なうちから任意後見契約などの準備を進めておくことが、結果的にスムーズな対応につながると考えられます。